新聞掲載記事平成27年10月

「130万円の壁」

Q. 私は、今66歳の女性です。生活費が年金だけでは足りないので、パートで働きたいのですが、年収に対し税金や社会保険はどのくらいかかるものでしょうか?

政府は、1億総活躍社会実現に向けて女性や高齢者の労働力アップや様々な少子化対策を掲げています。人口減少社会下では社会保障の家計への負担が増える他、小規模な地方自治体は行政サービスが維持できなくなり国力の低下を招くからです。女性の働く意欲を引出し労働参加を促すため、女性役員の登用促進など女性活躍推進政策も行われています。

その中で例年、所得税控除を受けるため労働時間を調整する「103万円の壁」の見直しが検討されています。現在夫と専業主婦の世帯では、夫の年間所得から38万円を差引いて課税対象を小さくし所得税を減らす「配偶者控除」がありますが、妻のパート年収が103万円を超えると控除対象ではなくなります。

もう一方、社会保険の「130万円の壁」があります。妻の年収が130万円以上だと妻自身も健康保険や第1号被保険者となって、国民年金の社会保険料を納める必要が出てきます。年収が103万円超や130万円以上にならないようパートで働く時間を調整する主婦が多く女性の就労意欲を削ぐ一因になっています。

ご質問者は66歳の年金受給者なので、「高在老」の対象として基本月額と総報酬月額相当額の合算額が47万円(平成27年度)を超えると1/2額が支給停止されるので、「47万円の壁」も考慮していくことになります。また年金財政と公平性の観点から第3号被保険者制度を縮小し、28年10月からパート労働者の厚生年金適用拡大が始まります。従業員500人超の企業に1年以上勤務、週20時間以上の他、「月収8万8000円の壁」も加わります。

私たち社労士には、企業から60歳前後高年齢雇用者の賃金試算の依頼があります。受給中の年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付、賃金とのバランス試算ですが、雇用者と企業側とで運用の難しさがあります。それを個人が、上記のいくつもの壁を調整しながら上手く働き続けられるのか、疑問です。

ウルトラCとして起業や、労働日数や時間を正社員の3/4未満に抑えて厚生年金に加入しないで働けば、受給中の年金は満額もらえ、税の「103万円の壁」だけ考慮すればいい。

今後これらの壁は廃止、引下げられる見通しで税や保険料負担が増えてももっと働いて収入を増やそうという女性が増えるはずです。生活費のためだけでなく仕事のやりがいや健康のため等、人それぞれ価値観により何を優先したいのか、皆さんで考えてみて下さい。

みくに労務管理事務所  特定社会保険労務士 渡邊孝利

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