新聞掲載記事平成26年6月

退職間際の年次有給休暇の一括請求について

Q. 先日、退職届を提出した従業員から同時に未消化分の有給休暇を請求したいと言われました。業務の引継ぎのこともありこの請求を拒否してもいいのでしょうか?

従業員が有給休暇を請求した場合、会社はこれに応じる義務があります。例えそれが退職間際であっても同様です。退職が決まった従業員に有給休暇を与える必要がないとお考えの事業主の方も多いかと思いますが、労働基準法第39条により「使用者は労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えなければならない」とされているからです。

使用者側としては「事業の正常な業務の運営を妨げる場合には、他の時季に年次有給休暇を与えることができる」という時季変更権を行使できないのかとお考えになるかもしれませんが、残念ながらこれもできません。

例をあげて説明しますと、4月1日の時点で4月30日付けの退職届を提出し、退職日まで有給休暇を取得したいと言ってきた従業員(有給休暇の残日数は35日)がいたとします。そしてこの会社の4月の実出勤日数は22日とします。この場合、有給休暇の残日数の35日に対して、退職日までの実出勤日数が22日しかなく、時期を変更できる日がありません。つまりは時季を変更できる余地がないために、そもそも時期変更権が行使できません。ただし、有給休暇の残りの13日については退職日をもって消滅します。

このような退職間際の一括請求に関しては、残務整理や業務の引継ぎができないなど会社にとっては不都合なものであり、かなりトラブルが多いです。実際、裁判で争われるケースもありますが、今のところ使用者側に厳しい判決が目立ちます。一方で従業員の方についても会社に対し、労働する義務があるので残務整理や業務の引き継ぎをしないことについて、有給休暇の取得に関して法律で認められていることとはいえ、正直なところ褒められることではありません。今後、このようなことが起こらないためにも会社側は従業員に対して普段から意欲的に働ける環境を提供し、会社と従業員の良好な関係を築けるための取り組みを行うことが必要なのかもしれません。またこのようなトラブルを避けるために就業規則等の規程類の整備をすることをおすすめします。

最後になりましたが、上記の通り社会保障も充実してきておりますので安心して出産と育児に備えて下さい。

みくに労務管理事務所 社会保険労務士 竹沢智弘

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